抄録集
基調講演
演題 接着を応用した外傷歯の修復
演者 山本 一世(大阪歯科大学歯科保存学講座教授)
   歯科臨床に「接着」が取り入れられるようになってから半世紀以上になります。その間、コンポジットレジンや接着システムは著しく発展し、歯質、金属、セラミックスに接着が可能なレジンシステムは、いまや日常臨床に不可欠な存在となっています。とくに歯質に対する接着システムの進歩は近年著しく、エナメル質のみを接着の対象とした初代のシステムから、現在の最新のシステムである1ボトル-1ステップへと進化を遂げました。歯質接着システムの進歩は日本の研究成果が大きく関わっており、日本が世界に誇れる技術のひとつといっていいでしょう。いまや接着性レジンシステムはその審美性とともに、切削量を必要最小限にとどめて健全歯質をできるだけ保存しうるという点から、FDIが提唱しているMI(Minimal Intervention)に基づいた修復治療の主役であり、今後さらに発展してゆくことは疑う余地がありません。接着性レジンを活用することで歯質の削除量を大幅に減少できることはもちろん、従来は抜髄や抜歯などを必要とした外傷歯の処置も、症例によっては最小限の侵襲による保存が可能です。すなわち接着性レジンを活用することは、同時に歯をまもることにつながると言えます。本講演ではボンディングシステムの接着メカニズムやその使い分け、さらには接着を活用した歯冠破折や歯根破折の対処法についてお話させていただきたいと思います。
教育講演
演題 発育期における埋伏過剰歯・含歯性嚢胞・関節突起骨折の治療に対する一考察
演者 有田 憲司(大阪歯科大学小児歯科学講座教授)
   子どもは生まれながらに自ら育つスーパーシステム(潜在能力)を持っています。したがって、増殖・形成期にある組織(歯髄、歯根、歯周組織、顎骨等)に対しては、その優れた生命力や正常に発育しようとするこの潜在能力を利用した治療が可能です。ただ、各組織・器官のスーパーシステムが未解明である現時点においては、口腔外科処置後に顎口腔諸器官の形態と機能の正常な発育を阻害しないより生理的な好ましい成果を求めるなら、必要最小限の侵襲の手術を選択すべきです。つまり、発育期の小児には、自然な発育を利用した特有の治療法を施すべきですが、口腔外科学の分野においてその様な視点の研究や治療法は少なく、口腔外科処置の多くは成人の治療法が流用され不必要な侵襲により小児の負担を増加させているように感じられます。
 本講演では、発育期に発現頻度が比較的多い三疾患を選び、埋伏過剰歯の処置では摘出時期の重要性について、含歯性嚢胞の処置では通常行われる「開窓法」とは異なる一手術法について、そして関節突起骨折ではアクチバトールを用いた非観血的処置法について、それぞれ私の症例および研究成果を紹介し、発育期の口腔外科治療における自然な発育を利用した治療法の有効性に関して考察したいと思います。
特別講演 1
演題 顎関節症における新分類(病態分類2013)と臨床的意義
演者 覚道 健治(大阪歯科大学 名誉教授・
      大阪歯科大学口腔外科学第二講座 臨床教授)
   顎関節症に対する治療体系は,ここ15年で大きくパラダイムシフトを遂げた感がある.MRIによる画像診断の普及に始まる鑑別診断法が全国的に整い,従来の単一療法から,鎮痛薬の連用投与法などの薬物療法,パンピングマニピュレーション(徒手的顎関節授動術;パンピングを伴う)の保険導入,運動療法,家庭での行動変容指導などを組み合わせた集学的療法へと替わりつつある.さらに,Kuritaらの本疾患の自然経過の追跡調査から,顎関節症の病態がself limitingな疾患であることが解明され,保存療法が主体となり,狭義の外科療法の必要性の少なくなってきているのが現況である.また,日本顎関節学会では,従来の顎関節症の症型分類(2001年)を,欧米の分類との整合性を図るための改定が行われ,新たに「顎関節症の病態分類(2013年)」が制定された.本講演ではでは新しい顎関節症の病態分類をもとに顎関節・咀嚼筋疾患および障害との鑑別診断と顎関節症の治療ならびに新たに保険導入された顎関節洗浄療法の実際についてビデオを交えて述べる.
特別講演 2
演題 自閉スペクトラム症を有する患者の歯科治療
演者 大西 智之(大阪府立急性期・総合医療センター 障がい者歯科)
   近年、障害者の権利擁護に向けた取り組みが進んでおり、平成18年に国連において障害者権利条約が採択され、それを受けて、本年4月1日から障害者差別解消法が施行されました。この法律では、正当な理由なく障害者への医療提供を断ったり制限したりすることを禁止しており、また、障害者が診療を受ける際の障壁を取り除くための配慮を、医療従事者が行うことが義務付けられています。これにより、今後は障害者歯科専門医ばかりでなく、それ以外の歯科医も障害者の歯科医療に積極的に関わることが期待されると思われます。今回は、自閉スペクトラム症(Autistic Spectrum Disorder,ASD)者が歯科医療を受ける際の障壁とはどのようなもので、それを取り除くにはどのような配慮が必要かをお話ししたいと思います。
 ASDの原因は先天的な脳の機能障害であり、健常者とは脳の働き方が違うため認知や感覚刺激への感じ方に違いが生じます。すなわち、健常者では、聴覚や視覚などの感覚刺激や対人的コミュニケーションから得た情報を無意識に取捨選択、統合し,効率的に処理していく能力を持っていますが、ASD者はこの能力に乏しいことが知られています。これにより、ASD者は感覚刺激に対し極端に敏感であったり、反対に鈍かったりといった異常反応を示し、また、コミュニケーションや社会性構築に障害をきたします。その他にも、知的障害、パニック、多動性など様々な障害特性を有しており、そのために歯科治療への適応が困難となることが多いです。しかし、これらの特性を理解し適切な対応を行うことにより、円滑な歯科治療を行うことができるようになります。今回は、ASD者の認知の特性と感覚刺激への異常反応に対する当科での対応法を紹介します。
特別講演 3
演題 低年齢児の再植歯に関する説明責任
演者 後藤 修一郎(大阪府歯科医師会 理事)
   日常の歯科臨床において成長期にある低年齢児の口腔の外傷にしばしば遭遇する。特に口腔外傷は口腔医学の立場から科学的根拠に基づいた臨床的治療法を確立する必要がある。小児の顎骨は柔軟で弾力性に富んでいるので、外傷を受けても骨折部は完全に離断していない場合もある。特に乳歯列期は成長発育と同時に生理的歯根吸収と後継永久歯の萌出による交換現象に影響を与える危険性がある。小児の顎骨内ではデンタルエックス線所見では骨折線が不明瞭な場合も多いので注意する必要がある。そこで基礎に立脚した臨床的立場から対応について解説するとともに、小児の場合は患児本人はもとより、保護者にもしっかりと説明する必要があり、臨床の現場での対応について報告します。
ランチョンセミナー
演題 新機種 3Dパノラマ エクセラMFの有用性について
演者 山内 和弘 (株式会社 ヨシダ 画像情報部 課長)
   近年、国内歯科用デジタルレントゲンの設置状況は、CT併用パノラマレントゲン装置の登場により2007年度から2015年度の9年間CT導入数は10倍にまで増加(R&D調査より)、現在、約1万件の歯科医院で利用されております。
機能としては、従来型の単にパノラマ撮影できる機能だけでは無く、個々の治療科目に合わせたCT撮影の方法やCTデータを利用し、他のソフトと複合的な診断ができる機能を搭載した商品に加え低価格志向の製品がトレンドとなっております。

今回、紹介致します「エクセラMF」は、最近の製品トレンドを踏まえた待望の商品となります。

■特徴
①0.2mmの極小管球焦点と宇宙開発素材を採用した最新ダイレクトC-MOS
センサーによるニジミの少ない鮮明な画像を提供。
②メーカー独自の断層可変テクノロジーにより最適なフォーカスが得られ
る「イメージクリエイター」を搭載し、レントゲン撮影後に不鮮明な
部位を簡単オートフォーカスできます。
③4種類のCT撮影モードを搭載し、エンド治療等に最適な小視野から
外科・矯正に必要な大視野まで用途に合わせてご利用頂けます。
④ソフトウェアは口腔内カメラ等、その他の撮影装置、カルテコン
ピューターとの連動が可能で患者様の一元管理が容易です。

この様に多彩な機能を搭載した「エクセラMF」の有用性についてお話したいと思います。

 

市民フォーラム
演題 全身の健康はお口の健康から
演者 小谷 泰子(大阪府歯科医師会 理事)
   皆さんはお口の中のことをどのくらいご存知でしょうか?歯は何本あるでしょうか?前歯と奥歯の形が違うのはなぜでしょうか?舌はどのように動くでしょうか?のどちんこは何のためにあるのでしょうか?
美味しいものを食べたり、友人やご家族と楽しくおしゃべりする時など、お口はとても大きな役割を担っています。今回はお口の働きを、食べる(摂食嚥下機能)、しゃべる(構音機能)を中心にお話をさせていただきます。今回のお話で皆さんが少しでもお口に興味を持っていただければと思います。